子供のころから乗り物が好きだった少年。次第に自転車に魅せられていき、大人になった今、ひとつの自転車雑誌をまとめる立場に就いた。自転車が好きになったのは、父親とのかかわり、その遊び方にあったという。サイクルスポーツ編集長、𠮷本司さんが考える「子供と自転車」とは――。
リレーコラム#03 𠮷本 司さん「子供のころの体験は年をとるほど効いてくる」

リサイクルした自転車からはじまった
「自転車は身近にあって、しかも最高の冒険のツールだと思います。子供のころは、一人でよく走っていました。クルマ、電車、自転車。とにかく乗り物が好きでした」
日本最大の発行部数を誇る自転車雑誌「サイクルスポーツ」の編集長を務める𠮷本司さん。子供のころ、父親が手に入れてきた自転車を一緒にリサイクルしたことを強く記憶しているという。
「それがかなりサビていてボロボロ(笑)。父親と2人でサビをきれいに落として乗っていました。きれいにするのは面倒でもあったんですが、段々ときれいになっていく自転車を見ていると愛着がわいていって・・・。乗るのも楽しかったのですが、自転車をメンテナンスする楽しさも教えてくれた自転車でした」
サビた自転車を再生させたことで、自転車の楽しさに知った𠮷本さん。中学生になるころには自宅から60㎞以上離れたところまでサイクリングするようになっていた。
「それからツーリング用の自転車を手に入れて、走れる距離がどんどんと伸びていきました。高校に入るころには次第にレースにも興味がわいてきて、スピードを求めるようになりました。ここまで話したところにも関係していますが、自転車の楽しさは3つあって、ひとつはメカに触るという機材の部分、次は遠くまでに走れるように自分を高める身体の部分、最後は旅の部分だと思っています。これらの中でも自転車のベースになる楽しさは、旅の部分だと考えています」
この親から生まれてよかった、そう思える体験を自転車で。
実際、編集長になった2年ほど前から“旅”をテーマにする企画を増やしているという。
「今はロードバイクがブームですが、このロードバイクを本来の“競技”に使っている人はそんなにいないんですよね。レース的なイベントも多いのですが、本当の意味で競っている人は少ないですし、自転車に乗っている人に話を聞くと、“競うこと”に疲れている人が多い。そんな状況から、今は自転車でのんびり旅をするというのがトレンドになりつつあります」

▲スバル自転車部のみなさんと旅ライドをしたことも。
自転車と旅。確かに夢にあふれるものではあるが、子供に自転車で旅をさせるのはなかなか難しいような気がするが・・・。
「いやそんなことないですよ。ひと口に旅といっても、長い距離を走る必要はありません。近所をぐるぐる回るだけでも十分。特に子供にとっては、知らない道を走ることだけでも旅になります。日曜日の朝、起きて天気がいいからじゃあ走りに行こう!という気軽さでいいんじゃないでしょうか。とにかく気持ちよく走る、というところが大切です。大人だって同じです、無理をしないで“楽しかった”という記憶が残れば、自然と走りたいと思うはずです。
少し大きくなったら子供がひとりで走るのもいいかもしれません。道に迷ったり、行き止まりに入り込んだり。不安を覚える体験かもしれませんがなど、きっと強くなれるはずです」
“子供のころの体験は年をとるほど効いてくる”という𠮷本さん。実際に今の年齢になり、ふとしたタイミングであんなこともした、こんなこともしたと、親と一緒に楽しく遊んだことを思い出すこともあるという。
「自転車は簡単にはじめられる身近な冒険ツールです。遠出をしなくてもいい、狭い範囲でもいいと思います。小さい経験を何度も積み上げる。歳をとったときに“この親から生まれてよかった”と思える体験を一緒にしてみましょう」

𠮷本 司(よしもと つかさ)さん
神奈川県生まれ。2年前、フリーランスのライターから八重洲出版が発行する自転車専門誌「サイクルスポーツ」の編集長へ就任。