2021年の夏も猛暑になることが予想されています。下界でうだる熱風の中で走るのも精神修行としてはいいですが、もっと印象に残るようなライドをしたいなら、いっそのことドライブを楽しみながら高地で走ってみるというライドエクスペリエンスをしてみてはどうでしょうか。
ちょっとチャレンジングだけど頑張れば上りきれて、しかもSNSのネタとしても撮れ高抜群の渋峠をご紹介したいと思います。ここ数年は草津白根山の火山活動が活発で通行止めが続いていましたが、今年3月より全面開通となり草津側から上れるようになりました(とはいえ依然として噴火警戒レベル1です)。
熟練したサイクリストの中では語り尽くされている有名な峠ですが、ライターで編集者でサイクリストの山本健一が実走レポートをします。
涼を求めて峠でライド
日本国道最高地点の渋峠 東から上るか? 西から上るか?

ダブルで楽しめる、ヒルクライムの聖地
渋峠は、群馬と長野県をつなぐ国道292号が通過している峠で、国道としてはもっとも標高が高く(標高2172m)というインスタ映えするポイントです。サイクリストやバイカーの憧れの地といっても過言ではないですが、関東一円からは比較的アクセスがしやすいので、チャレンジしない手はありません。
今回のルートは群馬県側の草津ルート(草津町起点)と、長野県側の志賀高原ルート(湯田中温泉起点)の2つです。いずれも温泉地からのスタートで、癒し効果には引けをとりません。いくつか分岐はありますが、基本的に国道292号のワンウェイなので往復路を走るというエピックなチャレンジをしても面白いですね。これは人呼んで「往復ビンタ(峠を往復するので)」。健脚な人は挑戦をしてみてください。
さて、それぞれのコースでどんな魅力があるのか独断と偏見でレポートしたいと思います。
草津ルートは草津町中心からスタートすると20.6kmほどです。獲得標高約1000m
志賀高原ルートは湯田中の道の駅北信州やまのうちから。26kmのコースです。獲得標高は1500m。

草津ルートは道の駅 草津運動茶屋公園から。
雄大な自然の中を走る草津ルート
今年3月に全面開通したばかりの草津ルートは、ヒルクライムレースが開かれたほどの人気コース。開通を待ち焦がれた人も多いと思いますが、現在でも噴火警戒レベル1が続いています。規制区間の走行は案内をしっかり守って走ってください。

草津町内をぬけるとすぐに上りがはじまります。草津温泉スキー場をすぎると信号がひとつもない本格的なヒルクライムに。
温泉地ということで火山活動が活発な山岳地域ですので、地球の活動を垣間見るポイントも多く、山岳の美しさと厳しい自然の両面を体験することができます。
草津側からは、道の駅草津運動茶屋公園を起点におよそ20.6km、1197mから2172mまで上るコースです。平均勾配5%ほどですが、白根山までは比較的勾配がきつい場面があるので油断は禁物。しかしコース途中に景勝地となっている車寄せポイントが多々あるので、小休止のついでに撮影などをお楽しみください。
繰り返しますが硫化水素ガスが噴出しているポイントは駐停車禁止となります。地面から煙があがりツンと硫黄の匂いが立ち込めているところには滞留しないよう注意してください。おもに上り始めて6.5km地点周辺の殺生河原は素晴らしい景色ですが、グッと堪えて立ち止まらず走りきりましょう。

スタートから5km地点あたりに注意喚起の看板がたっています。硫化水素は毒性が強いガスですので、絶対に立ち止まらないこと。

駐停車厳禁。殺生河原付近のガス発生地区は生命の起源を連想させるような風景が続きます。

白根山までのルートは大絶景を堪能してください。

つづら折りを越えるたび、大パノラマを楽しめます。

絶景ポイントには駐車場が用意されています。
序盤は雄大な景色に圧倒されつつも、勾配変化・景色も移り変わるコースで楽しく上れます。コースは長いので軽めのギアを装備して余裕をもちたいところ。筆者はリアスプロケットに30Tというローギアを使いました。
景色に圧倒されながら走っていくと次第に勾配が緩やかになり、森林限界も近く木々も低くなり空が開けます。13km地点に差し掛かると荒涼とした白根山が見えてきます。
現在もレストラン施設は臨時休業中、火口の湯釜は立入禁止区間になっていて、白根山周辺も駐停車禁止になっていますので、そのまま通り過ぎましょう。

白根山が見えてくると勾配はゆるやかになります。この日は雲海を楽しめました。

白根山を抜けて下りに入り進むと分岐があり、志賀高原方面へ。
ここまで撮影しきれないほど雄大な景色を満喫できますが、なんといっても中央分水嶺付近の景色は目に焼き付けておきたいところ。「ああ、ここで日本海側と太平洋側で水系が分かれているんだなあ」と特別な稜線の上に立っていることに感銘をうけることでしょう。なにより絶景を楽しんでください。分水嶺付近で停車したい場合は、少し上った先の駐車スペースをご利用ください。路肩は広くありませんので、交通マナーを守って記念撮影を。
標高2000mを超えると酸素も薄くなり、いつも以上に疲労を感じます。一気に上らずに休憩エリアで眺望を楽しむ時間的余裕をもっていきましょう。

天空からワインディングロードが見下ろせますよ。

分水嶺の手前の山田峠。ダイナミックなことに尾根伝いが道路になっています。

中央分水嶺の碑をすぎると国道最高標高地点までもうすぐ。

標高が高く空気が薄い。勾配のきついワインディングを上ると、ゴールまで残りわずかです。
ここを過ぎると、フィニッシュまで2kmほど。力を振り絞って、天空を走っている様な気分させるつづら折りを越えていきましょう。アルプスやピレネーの山岳コースを走るツール・ド・フランスのような気分にさせられるはず。

国道最高地点には石碑があり、絶景……のはずが今回はガスで雲隠れ。
最高標高地点の国道最高地点の碑に到着。言わずもがな景勝地の中の景勝地ですが、今回は残念ながら霧が立ち込めて白いキャンバスとなってしまいました。どんな状況でもここまで上ると達成感で満腹です。

稜線の反対側はなんと晴天。風の流れで全く違う天候になるのでしょう。

群馬県と長野県の県境にある渋峠ホテル。ここで日本国道最高地点到達証明書を発行してもらえます。
せっかくここまで上った記念は写真だけでなく、この先にある渋峠ホテルで日本国道最高地点到達証明書(1枚100円税込)を発行してもらいましょう。ちょうどこのときは臨時休業中で未達成となりましたが、近いうちに取得するために再訪する予定です。
草津ルートは普段、定期的に運動をしている人なら、撮影をしながらでも2時間半〜3時間で上り切ることができそうです。
そのまま通り過ぎれば、長野県側の志賀高原ルートの下りを楽しめます。時間と体力がある人はぜひ「往復ビンタ」を楽しみましょう。

草津温泉街では足湯や手洗い場などがあり、時間がなくても手軽に温泉で癒すことができます。
今回トランポとして使用したのはスバル・レヴォーグ。

センターのディスプレイが秀逸で、アイサイトと連動した視覚情報の提供や、スマートフォンなどのデバイス連携もスムーズで、安全かつ楽しいドライブを可能にしてくれます。都内から高速道路を経て片道200kmのクルーズはアイサイトの高度運転支援技術によって、長距離移動の疲労を大幅に軽減できたことを実感できました。

リアシートをフルフラットにすると、自転車をそのまま入れることができるほど広い空間を作り出せました。

上りがあれば下山もあります。標高が2000mを超えているので、夏でも気温はかなり低いといいます。さらに下りで風を浴びるとさらに体感温度は下がりますので、防寒着は必ず持っていきましょう、指先、首元、つま先を防寒するだけでも効果はあります(6月末で頂上の気温は13度でした)。

長い峠なので余裕のあるギア比で。シマノを例にするとフロントのインナーギアを34T、リアは30〜32Tであれば、大抵の上りはこなせるでしょう。
森林浴で清々しい志賀高原ルート

志賀高原ルートは湯田中の道の駅、北信州 やまのうちをスタートします。サイクルラックなどの設備もあります。

湯田中の中心部にある、湯田中駅は全国でも珍しい足湯がある駅。ゆったり浸かることができます。
こちらの志賀高原ルートは51ものカーブを有する、無限つづら折りでヒルクライムの醍醐味を味わえるコースとなっています。無論、走りごたえ抜群。
起点は道の駅やまのうち。草津ルート同様に292号を走ります。渋峠目指す26.2kmの道のりです。およそ1500m上るので、草津ルートよりもややレベルが上がります。勾配5.7%とヒルクライムコースとして不足はありません。

志賀高原ロマン美術館のあたりから、本格的な上りになります。

森林に囲まれた道が続きます。二箇所ほどループした陸橋があり景色が良いですが、立ち止まるのは少々危険です。
序盤はコース幅がひろく直線的で勾配もきつめ。先は長いので息が切れないように余裕をもってゆったりいきましょう。志賀高原ロマン美術館のあたりから、カーブが連続する本格的なヒルクライム区間に。湿原や大きな湖があったり、スキーリゾート地を抜けていくなど、ヨーロッパの自転車レースのような雰囲気に浸れます。中盤すこし勾配なだらかになるので、足を休めましょう。14km地点には平床大噴泉があり、水蒸気が勢いよく上がり、硫黄の匂いが立ち込めています。ここからカーブが連続し、上りもきつくなります。

スキーリゾートホテル街や、湿原、平床大噴泉などバリエーションが豊富です。

51のカーブを経ていよいよクライマックスの横手山へ。このあたりは急勾配区間です。
カーブには番号が振られていて数えながら上ってもいいでしょう。サイクリストに馴染みが深い、ツール・ド・フランスの定番コースであるラルプデュエズ(L'Alpe-d'Huez)も21のコーナーには番号と歴代覇者の名前が刻まれていて、そのイメージをダブらせながら走ると気分も高揚するはず。
51のコーナーを抜けると空が広くなっていって、横手山の山頂を通過します(2307m)。ここがもっとも急勾配ですが、横目に2307スカイカフェや、横手山ドライブインがあるので、コバラが空いたら小休止を。カフェ内は絶景も楽しめます。
ここから渋峠までのコースも素晴らしい景色を楽しめます。取材日は雲が多い日でしたが、2000mを超えると雲海の上を走る極上ライドを楽しめました。

カーブ51を抜けると横手山の絶景ポイントへ。ぜひ撮影していってください。

2307スカイカフェでは、昼食とカフェ、お菓子やノベルティグッズが販売されています。

横手山ドライブインはおみやげや昼食など大休止向け。たけのこご飯が旬でしたので戴きました。
食堂からの景色はすばらしいです。

スカイカフェからの絶景!

横手山から渋峠までのアプローチではパノラマビューを楽しめます。
さて、いずれも甲乙つけがたい魅力をもっていて、見どころも満載で、じっくり観光すると片側だけでも十分楽しめます。起点が温泉地というのも走り終わった後の癒しポイントが高いですよね。
そんなわけで、暑い夏こそ高地の峠で涼しくヒルクライムを楽しみましょう。
テキスト&写真/山本健一
サイクリスト、編集者、文筆家、イベントディレクター。若かりし頃は自身の可能性を求めてプロサイクリストを目指す。現在は経験を生かして、スポーツ自転車の素晴らしさを多くの人たちへ啓蒙することをライフワークとしている。最新機材の試乗インプレッションから、国内外のレース・イベント取材をはじめ、国内のイベントディレクションなど幅広くこの世界に携わっている。