クルマと自転車でめぐる歴史探訪シリーズ。第一回は「源 頼朝」にフォーカスして、走りごたえと見ごたえのある歴史スポットをめぐりました。幕府成立前、その後の隆盛のきっかけとなった「石橋山の戦い」のルートをご紹介します。
SUBARUと自転車でめぐる歴史探訪
「石橋山の戦い」からの頼朝逃亡ルートを自転車で旅する

クルマと自転車なら歴史もより愉しめる

歩くには「遠い」と感じる距離でも、クルマと自転車を組み合わせれば快適さとスポーツの楽しさ、そして五感をフルに使って感じるその土地の魅力も味わうことができます。この組み合わせでは、いろいろな楽しみ方ができますが、そのひとつとして考えられるのが歴史めぐりです。ひとつずつ歴史文化に触れながら、匂いを感じて走れます。
今回は今まさに注目されている「源頼朝」にスポットをあて、頼朝が幕府成立前に戦い敗れたものの、その後の隆盛のきっかけとなった石橋山の戦いのルートをめぐります。

ルートは小田原の南からスタートし、石橋山古戦場(①)からそのまま海岸線を望みながら南下。湯河原あたりから走りごたえのある上りルートを走り「しとどの窟」へ。そこから下って頼朝船出の浜まで走る、走行距離は80㎞ほどですが、かなりキツめのコースです。

石橋山古戦場近く、漁港の駐車場にクルマを駐車して、走り始めます。
今回のルートは平安時代末期「石橋山の戦い」で敗れた頼朝が箱根山中を逃げ、最後は真鶴駅近くの「岩海岸」から安房国(千葉県の南端)へ落ち延びたという足跡を追います。
果たしてその落ち延びたルートはどんなところなのか? かなり興味をそそられたところもあり、今回のルートを設定しました。

まず最初に訪れるのは、JR早川駅の近く「石橋山の戦いの古戦場」です。相模湾を望む海岸線から、山側に上ったところにありますが、いきなりの激しい上り!

途中、自転車に乗ったままでは上れないほどの斜度20%の激坂もあり。またうっそうと茂る竹林があり、蒸し暑ない中でも少しひんやりした様子。"古戦場"の雰囲気がひしひしと感じられます。

この激坂をなんとか上っていくと、石橋山古戦場の石碑がひっそりとありました。この戦いは、平安時代末期の1180年、源頼朝と平氏政権勢力との間で行われたものです。幽閉されていた頼朝が、源氏の再興をかけて立ち上がったものの大敗。山側の箱根山中へ落ち延びました。

石碑から海側を望むとこの絶景! 842年前にも頼朝がこの景色を眺めた(そんな余裕があればですが)と思えば、感慨深いものがあります。古戦場といえば、少し気味が悪いというイメージもありますが、そんな空気を吹き飛ばすような相模湾の絶景でした。

さてこの戦いの敗戦後、頼朝は箱根山方面に逃げ延びたと言われています。完全にそのルートを追いかけることはできませんが、現在、その辺りにはトレッキングコースがあり歩きではいくことができます。残念ながら自転車では走れないので、海側から回って、頼朝が立ち寄ったとされる「しとどの窟(いわや)」を目指します。

岩礁に白波が打ち付ける荒々しい景色を眼下に湯河原方面に向かって進みます。本来は国道135号を通るルートが近道。景色も良く自転車レーンもあるので走れなくはないのですが、交通量が多く緊張感を強いられます。のんびり走れる雰囲気ではなかったので、国道を離れて山側を通るルートを走ります。

湯河原から12㎞のヒルクライム
次の目的地、「しとどの窟」は地名でいうと、温泉地でよく知られる湯河原のさらに奥に位置しています。石橋山古戦場からはアップダウンが連続する山がちなルートを進みましたが、距離は15㎞ほどなので、あっという間に湯河原駅付近まで到着しました。

ここからは約12㎞、上りっぱなしのルートを進みます。はじめはそれ程の斜度ではありませんが、途中から10%を超える斜度が続く九十九折りの道になります。歩きで落ち延びた頼朝に比べれば、楽かもしれませんがなかなかの厳しい道のりです。

湯河原らしい風情のある景色の中を進みます。

湯河原の市街地から1時間弱。ようやく「しとどの窟」近くの展望台に到着です。なかなかの走りごたえでした。雨上がりのため、湿度の高いまとわりつくような空気にもかなり苦労させられました。

トンネルを抜けると、しとどの窟の入り口。いくつもの灯ろうが立ち並び、霊験豊かな雰囲気が漂っています。石橋山の戦いで敗れた頼朝はこの洞窟に隠れ、追手から逃げ延びました。命を救った洞窟があればこそ、後の歴史が大きく変わったとされており、昭和30年に神奈川県指定史跡として指定されています。

特にバイクシューズを履いている場合には注意が必要です。「しとどの窟」までの道は舗装されていますが、下りで滑りやすいので、サンダルなど歩きやすい靴を持って行くのをおすすめします。

しばらく下っていくこと約10分ほど、ようやく到着です。この岩屋は古くから山岳信仰の修行の場にもなっています。石仏がたくさん並んでいるため、神聖な雰囲気も漂っています。横幅は10メートルほどあり、屋根のように岩がくぼんでいて、敵から落ち延びながら隠れるのにはまさに格好の場所。

しとど(雨などでびっしょり濡れた様子)と名づけられているだけあり、岩屋の中央からは滝のように水がしたたり落ちています。頼朝はここでしばらく過ごした後、再び相模湾を望む海辺に逃れていきます。

頼朝は徒歩ですが、私は自転車で快適に下っていきます。湯河原の市街地を越えて再び相模湾を目指します。

雨上がりの濡れた路面に気を付けながら、ゆっくり走りますが下りはあっという間。上りで1時間かかった道を30分もかからずに下り切り、湯河原市街に到着です。ここから距離にして3㎞ほど、今回最後の目的地「源頼朝 船出の浜」を目指します。

「しとどの窟」で難を逃れた頼朝は、最終的にこの岩海岸から海路で房総半島まで逃れます。ここまで山道を歩いてきてからの海路。なかなかダイナミックな移動を続ける頼朝ですが、最終的には逃れた房総の地で再起へののろしを上げることになります。

源頼朝 船出の浜です。天気が良ければ、房総半島も見られるようですが、現在は岩大橋を望む景色になっています。相模湾に面していながら波が穏やかで、今は穴場のビーチとして人気とのこと。

ひっそりと「源頼朝 船出の浜」という石碑もありますが、足跡をたどれるのはこれのみ。本当に静かな浜辺でした。

今回は「石橋山~しとどの窟~岩海岸」という、頼朝が歩いたとされるルートを自転車でめぐりました。実際には山中を歩いた頼朝の足跡は追っていませんが、自転車で走ってもなかなか走りごたえのあるルートでした。歩くと大変、でも自転車なら問題なくめぐっていける。改めて自転車の愉しさを感じられた旅でした。
- 取材/今 雄飛