「この町のメインストリート わずか数百メートル さびれた映画館と バーが5、6軒」
広島県竹原市が生んだロックスター、浜省こと浜田省吾の人気曲「MONEY(マネー)」の歌詞冒頭。
高校卒業後、自動車整備工場で油まみれになりながら汗を流していた19歳の青年。彼には空耳で「さびれた映画館と バーガーゴロッケン」と聞こえていた。そう、「バーが5、6軒」ではなく、「バーガーゴロッケン」。
月日は流れ、2021年7月20日、日本マクドナルド創業日と同じ日に、高田善夫さんは55歳でバーガースタンド「バーガーゴロッケン」を奥さんの朝子さんと共にオープン。
スバリストなサイクルライフ


『さびれた映画館と バーガーゴロッケン』

場所は、サイクリストの聖地であるしまなみ海道の中心、生口島の瀬戸田。瀬戸内の多島美とサンセットビーチで知られる海岸線が美しい港町。長年過ごした横浜を離れてしまなみ海道への移住。移住は計画的であった反面、バーガーショップの開業は突然でもあった。
「数年前から、ふるさとの岡山にも近くサイクリストの聖地でもあるしまなみ海道で新たな人生プランを、と考えて準備はしていました。そんなタイミングでコロナ禍になり仕事が激減したことでおのずと移住計画が進みました。ただ、こちらで何をやるかは決めてなくて・・・」
移住前は、小学校と提携して学校行事のカメラマンやアルバム制作を手掛ける仕事を長年続けていた。夫婦ともに飲食経験はなかったが、浜省ファン、そして思い出の”バーガーゴロッケン”から、瀬戸田で手作りハンバーガーを売りながらの島暮らしをはじめた。


今、高田さんは自然豊かなしまなみ海道を、時にロードバイクでサイクリングを楽しみ、時に愛車のWRX STI S208でドライブに出かける。
長年コルナゴに乗り継ぐ硬派なサイクリストであり、現在所有するコルナゴは3台。SUBARU車は、サンバー、レガシィ、レヴォーグ、アウトバック、そして限定車のWRX STI
S208まで通算7台目という生粋のスバリストでもある。


サンバーにはじまりS208限定車

はじめてのSUBARU車は、2000年ごろに仕事の営業車として手にした軽バンのサンバーだった。
「積載量が多いということだけでなく、リアにエンジンを積む独自のRRレイアウトによる高い操縦性に惹かれて、一気にSUBARUファンになりましたね。ちなみに、農家さんの多いしまなみでは、サンバーが人気ですよ」
新婚旅行もサンバーに乗って長野をめぐる旅をした。SUBARUの魅力を知った高田さんは、その後初代レガシィ(BC型)を手にする。どこへ出かけるもSUBARUとともにあり、ロングドライブへ出かけることも多かった。恒例となっていたのは、住まいの横浜から夫婦のふるさとである岡山までのドライブ。片道600kmほどの距離を走らせた。これは、サンバーにはじまり、現在のWRX STI S208まで歴代すべてのクルマで走ってきた。


自転車イベントの移動はすべてSUBARU


2008年から趣味でロードバイクをはじめると、夫婦で各地の自転車イベントに参加するようになった。もちろんSUBARUとともに。
「グランフォンド石見(島根県)に参加したとき、故郷への帰省を考えれば余裕かなと思っていたら、想像以上に遠かった・・・。土曜日移動で日曜日に170kmほど走るロングライドだったのですが、土曜は夜通しレガシィを走らせて、そのままイベントに参加してまた夜中走って帰ってきました。そんなアクティブに遊べたのもSUBARUのおかげだと思います」
当時、俳優の鶴見辰吾さんが主宰していたサイクリングクラブ「LEGON(レゴン)」に所属。多くの仲間にも恵まれ、ロングライドイベントはもちろん、Mt.富士ヒルクライムや乗鞍ヒルクライムにも参加するなど、ロードバイクにどっぷりとハマっていた。
「(宇都宮で開催の)ジャパンカップの応援には、レヴォーグで行きましたね。ちょうどファビアン・カンチェラーラが参加した年でサインをもらったまではよかったのですが・・・、彼の用意していたペンが水性で、帰りのクルマでみたらほぼ消えていたなんてこともありましたよ」
このように、高田さんは夫婦でたくさんの思い出と共に、SUBARUとロードバイクのサイクルカーライフを楽しんできた。
そして今も、時間さえあれば、地元になったサイクリストの聖地しまなみでペダルを漕ぐ日々



当たってしまった欲しかった限定車

ところで、高田さんの今の愛車は「WRX STI
S208」。スバルテクニカインターナショナルことSTIのテクノロジーの粋を結集したと言える450台製造された限定車だ。
「欲しかったことは欲しかったんですけど・・・。応募者多数の抽選方式だったので、当たるとは思わずに軽い気持ちで申し込んだんです。当時乗っていたアウトバック(BS9型)も気に入っていたので、正直買い換える気持ちではいなかったのですが、まさか当たるとは!」

今、しまなみ海道を駆け抜けるS208は、圧倒的な存在感を放ちつつ、実にスマートで研ぎ澄まされた走りをみせる。そんな高田さんがおすすめするドライブルートは、やはり地元の瀬戸田サンセットビーチ沿いだ。
「瀬戸田のヤシの木ロードは本当に気持ちよいですね。8000回転まで一気に吹き上がる高性能エンジンは持て余しますけど、ステアリングギア比11:1のキレキレのドライビングが本当に楽しいです」
ちなみに、奥さんの朝子さんは絶対に乗らないそうで、助手席が指定席。すっぽりと身体が収まるシートがお気に入りとのこと。




S208をカスタムすることは冒涜(笑)

高田さんはかつてはカートレースの世界でドライバーを夢見て、地元岡山の中山サーキットに通っていた時代もあった。その後もレース好きが講じて、レース撮影担当としてF1ドライバーの海外転戦に帯同した経験をもつ。そんな高田さんだからこそ、S208の価値をしっかりと味わっているのだろう。
「このクルマはカスタムしてはいけないです。STIの辰巳さん(SUBARUを代表するエンジニアでSTIチーム総監督)のテクノロジーの全てが詰め込まれたモデルですから、それをカスタムするのは冒涜にあたりますよ」と、高田さんは決してクルマのカスタムを趣味にしているわけではなく、SUBARUが好きでシンプルにカーライフを楽しんでいる。


お肉の仕込みが夜中まで続くことも。

バーガーゴロッケンをオープンして1年半。全国の浜省ファンはもちろん、サイクリストたちも手作りバーガーを求めて瀬戸田にやってくる。それだけでなく、地元のおじいちゃん、おばあちゃんたちがお店の前で井戸端会議をする光景が見られるなど、島民の皆さんのちょっとした憩いの場にもなっている。社交的で話し上手な高田さんの人柄も、周囲を惹きつけるのだろう。
「朝からサイクリングして、釣りをして、昼寝をして・・・。そんな生活を想像していたんですけどね」と苦笑いを浮かべる高田さん。バーガーゴロッケンは、土日月の週3日営業(祝日も営業)だが、夫婦ふたりだけでお店を切り盛りするのは大変なことも多い。
お店がお休みの日は、ふるさとの岡山までお肉を仕入れに行ったり、生産者の顔がわかる新鮮な野菜を求める日々。二人が食材にこだわって作るバーガーの数は限られているが、それでもお肉の仕込みは夜中まで続くことも。

スバリストファンにも来てほしい!

看板メニューは、備前黒牛のもも肉だけにこだわったパテとベーコン、そこに新鮮レタスとトマトなどを挟んだプレミアムバーガーのJ.BOY(J.BOYは浜田省吾の曲名から命名)。溢れる肉汁とシャキシャキレタスの食感、そこに絡むてりやきソースがたまらない、ふたりの愛情たっぷりの極上バーガーだ。


「商売は大変ですけど、地元の農家の方からお野菜を譲ってもらったり、漁師さんが新鮮な魚をくれたり、島ならではの生活を楽しめています。そして、浜省ファン、サイクリストの皆さんとの交流は楽しいひとときです。これからは関西圏のスバリストにもぜひ立ち寄ってもらいたいと思っています」と、笑顔の善夫さんと朝子さん。今日も、瀬戸田のバーガーゴロッケンで愛情こめてJ.BOYを作り続けている。



TEXT&PHOTO
ハシケン(橋本謙司)
映像と写真と文字で伝える人。自転車業界のメディアの立場として活動を続けて15年になるフリーランスの自転車ジャーナリスト。専門誌やウェブメディアにて連載をもち、スポーツ自転車の情報を広く発信。e-Mobility協会スペシャルパートナー。日本各地のサイクルツーリズム振興施策、リアルイベントの企画・広報などにも携わる。乗鞍・冷泉小屋スタッフ。過去にMt.富士ヒルクライム一般の部優勝など、自身もアマチュアレースを走り続ける。
https://www.hashikenbase.com