ソメイヨシノの名所、りんごの名産地として知られる青森県・弘前市。平地が多く景色も最高ということから、知る人ぞ知るサイクリングスポットとして、のんびり走るのには最適な地域です。今回は弘前市から太宰治の故郷・金木町まで、春の景色を愛でながらツーリングを楽しみました。
桜と新緑を味わうのんびりツーリング。
青森・津軽半島をゆく自転車旅


出発地点は弘前駅です。実は北東北に出張がありまして、せっかくの機会を自転車ライドに生かすべく、脚を伸ばして弘前まで来てしまいました。さすがに自転車は持ってきていないので、地元で自転車のツアーガイドを行っている友人に協力をしてもらい、一緒にライドを楽しみます。
今回走るスポットは以下の6か所です。
1.弘前駅周辺
2.りんご公園
3.鶴の舞橋(津軽富士見湖)
4.木造駅
5.斜陽館
6.芦野公園
お昼スタートということもあり約45㎞という短めのコース設定にしてあります。それでも景色と歴史、文化を堪能できるコースになっています。
"市民の台所"でランチを購入

まずは駅から自転車で1分ほどのところにある「虹のマート」へ。ここは弘前市民にはお馴染みのスーパーでもあり、観光客もおみやげを求めて訪れる人気のスポット。店頭にはこのあたりの海で獲れる新鮮な魚介類が数多く並んでいます。ここでお弁当を買って出かけることにしました。

パッと見ただけで新鮮だなと感じる、名産のホタテのほか、イカ、タコなどが並んでいます。どれもボリュームたっぷりで、しかも安い!

ホヤの名産地として北海道や宮城もよく知られていますが、青森でもよく水揚げされています。4月から8月が旬ということなので、まさに旬を迎えたばかり。丸々として身が詰まった姿は、まさに海のパイナップル。それが積み重なったところは、ほかではあまり見られない様子です。ホヤは大好きなので食べたいのですが、このままを買うわけにもいかず、海鮮丼を手に入れて次のスポットへ走り出します。
ランチはりんごの名所で

弘前駅から約5㎞、時間にして約30分。約9.7haという広大な敷地に約2300本のりんごが植えられているほか、お土産コーナーもある「りんご公園」でランチをいただきます。
遠くに見えるのが津軽富士と呼ばれる標高1625mの岩木山です。市内のどこからでも望めるシンボルですが、高台にある公園からは特に良くその雄大さが体感できます。

先ほど駅前で購入した、エビ、いくら、マグロ、ホタテなどの新鮮な魚介類がぎっしり詰まった海鮮丼をいただきます。りんごジュースは一緒に、ではなく、デザート代わりにします。

りんごの木と遠くにそびえる岩木山を眺めながらのランチは最高!りんごの花が咲く季節はまだですが、甘い香りに包まれている気がします。あくまで気配だけですが、なんとも華やかな気持ちになりながら、ランチを済ませて次に向かって走り出します。
岩木山を望みながらのサイクリング

次に向かうのは弘前市の北部にある「鶴の舞橋」です。このあたりは比較的路肩が広く走りやすいルートも多いのですが、より景色がキレイで交通量が少ない岩木川沿いのコースを走っていきます。市内のどこからでも岩木山は眺められるのですが、建物が少ない岩木川沿いからはより迫力ある姿を望むことができます。

岩木川沿いには、八重紅枝垂れ桜が見ごろとなっている公園も。垂れ下がった枝にピンク色のモコモコとした花が空を覆い隠すほど咲いています。まさに最高の時期です! ちなみに一緒に写っているのが、今回協力していただいた地元ツアーガイドの101デザインズの花田さんです。
江戸から続く鶴が舞う美しき湖

岩木川沿いを北上してたどり着いたのが津軽富士見湖です。1660年に津軽藩が新田開発のために用水池にした人造湖です。湖面が静かで岩木山を映すことから、「津軽富士見湖」と命名されたそうです。
奥に見えるアーチ状の橋は「鶴の舞橋」。日本一長い三連太鼓橋でこの町のシンボルになっています。江戸時代のころ、この湖にタンチョウヅルが飛来していたことも名前の由来になっているようです。

橋の近くに行くとソメイヨシノの花吹雪が出迎えてくれました。風が強く吹く日だったこともあり、空も歩道もピンク色。

全長300メートルもの三連太鼓橋は、ぬくもりを感じさせるようなアーチ構造を採用しています。天候が良ければこの奥に岩木山の姿が浮かび上がりますが、残念ながら霞がかかったこの日は見られず。とはいえ湖畔の景色は美しく、しばし佇んでいましたがまた走り始めます。
国宝の"土偶デザイン"の駅舎に立ち寄り

「津軽富士見湖」を後にして、最終目的地の芦野公園に向かいますが、その途中で気になるスポットをみつけたので立ち寄りました。JR五能線・木造駅です。駅に続く道からも見える独特すぎるデザインの駅舎が特長のスポットです。

木造駅があるつがる市には、世界文化遺産として登録されている亀ヶ岡石器時代遺跡があり、そこで出土した土偶を模したものになっています。明治20年に出土した左脚を欠いた大型土偶は、その眼部が「遮光器」に似ていることから「遮光器土偶(しゃこうきどぐう)」として知られています。

駅舎としてよみがえった街のシンボルは、左足を欠いたところはもちろん、幾何学的な文様などかなり精緻にデザインを踏襲しています。かと思えば電車が来ると目の部分が光るなど"遊び"も加えられています。ちなみに出土したオリジナルの遮光器土偶は国宝指定として国立博物館で展示されています。

駅舎もかなり特徴的ですが、このあたりの幹線道路に配置してある防雪柵もあまり他県では見かけない特徴的なもの。この柵は冬の季節、日本海からの風と雪が吹き抜ける"地吹雪"が凄まじく、視界を保っておくためのものです。

しかもこの防風柵、雪を防止するだけではなく、風の力を利用して道路上に降る雪を飛ばす効果もあるとか。この地域の気温が低く、サラサラとしたパウダースノーだからこそできるシステムですが、夏の間は格納されてる板が設置され安全な走行を保ちます。このような防風柵を左側に、まだ水が張られていない水田風景の中を走ります。
太宰の生まれ故郷"金木町"をゆく

遮光器土偶の木造駅を後にしてから15㎞ほど走ると、最後の目的地、金木町に入りました。ご存じの通り、ここは太宰治の生まれ故郷の町です。
画像は太宰治が生まれ育った家「斜陽館」。現在資料館となっていて国の指定重要文化財建造物になっています。明治40年に建てられた和洋折衷・入母屋造りの邸宅は、大地主であった津島家の威容を今も示しています。

モダンかつ重厚な印象のレンガを作った建築物は、明治時代の象徴といってもいいものですが、斜陽館にもその潮流が息づいています。高さ4メートルほどの赤レンガ塀が四方にめぐらされていて、日本家屋とのモダンさが相まって独特の雰囲気を醸しています。資料館内には太宰が使用していたマントや執筆道具のほか、原稿などが展示されています。
さくらの名所100選にも選ばれる芦野公園

斜陽館を後にして、5分ほど走ると芦野公園に到着しました。太宰治が幼少のころよく遊んだ場所として知られているここは「日本のさくら名所100選」にも選ばれている公園です。敷地内を鉄道が通る珍しい公園で、桜のトンネルの中を走る津軽鉄道の姿は訪れる人々を和ませています。

桜並木を抜けていくと、公園の敷地の大半を占める芦野湖に出ます。吊り橋がかっていたり、湖畔にはボート乗り場があったり、自然を求める市民の憩いの場となっています。今回の自転車旅はここまでとします。

途中、のんびりと景色を楽しむ場面も多く、予想以上に時間がかかったこともあり、芦野公園駅から弘前駅までは輪行で戻ることにしました。45㎞という短めの距離でしたが、立ち寄りスポットのインパクトが大きく、距離以上に満足感のある旅になりました。
春は桜、夏は比較的湿度が低く走りやすいとのこと(昔ほど涼しいという気候ではないようですが)。一緒に走った花田さんによれば、走りを楽しみたい人、食を楽しみたい人に向けたルートは「まだまだある」ということ。知る人ぞ知る青森のサイクリングルートですが、興味を持った人はぜひチャレンジしてみてください!
- 取材・撮影/今 雄飛(こん ゆうひ)
- 協力/101デザインズ