安全に運転する能力=運転寿命を伸ばすためのレッスン
スローエイジングドライビングレッスンの講師を勤めたのは、レーシングドライバーの松田秀士さん。現在64歳(イベント実施時)、現役日本人最高齢のプロドライバーとして現在でもレースの最前線で活躍しています。
松田さんが「スローエイジング」を提唱し始めたのは10年以上前。インディ500レースでの大クラッシュによってリハビリを余儀なくされた経験をもとに、現役生活を長く続けるための身体のケアやトレーニング、食事などのノウハウが、高齢者の運転能力維持にも活かせるのではないかと考えたのが始まりでした。これまで各所でレッスンを行ってきており、SUBARUとのコラボレーションは今回が初めてです。

「スローエイジング」を提唱しているプロドライバーの松田秀士さん
まずは自分の利き目を知ろう
レッスンの最初に行ったのは、自分の利き目がどちらなのかを把握すること。ちょっとしたことに思えますが、利き目は運転をする上で⾮常に重要な要素なのだそうです。例えば右目が利き目だと右側はよく見えるものの、左側は見てるようで見ていない状態のため、サイドミラーの確認などがおざなりになってしまう傾向があります。レースにおいても利き目によって得意なコーナー、不得意なコーナーがあるそうですから、一般のドライバーであればなおさら重要です。自分の利き目を知って、利き目とは反対の方向にしっかり注意を払うことで、より安全に運転することができるようになるのです。


指の間から赤い点を見ることで利き目を調べます。
初めて利き目がわかった、という参加者も
身体の衰えを自覚する
続いて行ったのは、両眼を動かすための訓練。運転は遠くを見ますが、ナビ画面やメーターなどのディスプレイの焦点は近くにあります。このようにドライバーは運転中、焦点距離の違うものを同時に処理しているのですが、老眼だと近い距離のものが見づらくなるため、脳は余計に疲れてしまうそうです。高齢になるほど疲れからの回復が遅くなるため、注意が散漫になり事故につながりやすくなります。参加者たちは、普段から眼の衰えをうすうすは感じていたものの、レッスンによって眼の衰えが明らかになったことに改めて驚いた人も多くいました。
「加齢は徐々に起こるので自分では気付かないことも多いですが、身体は絶対に衰えます。こうしたトレーニングを通じて衰えを普段から自覚し、それにどう対策すべきかを考えるきっかけにして欲しい」と松田さんは語っています。

糸を張って左右の眼で見つめることで毛様体筋を鍛えます
眼と脳と手を連携させるトレーニング
次に、色付きの矢印がたくさん並んだシートを使ったレッスンです。描かれた矢印の向きに合わせて手を動かし、色の名前を言っていきます。これは参加者のみなさんも楽々クリア。しかしさらにレベルアップして、矢印の向きを口で言いながら反対側に手を動かすトレーニングになると、参加者からは次々に「え〜︕無理︕」という声が挙がっていました。「最初は出来ないけど、毎日やっていけばだんだん出来るようになってきますよ」と松田さん。
これはもちろん遊びではなく、眼から入ってくる情報を脳で処理し、瞬時に体の動きで表現するための訓練。運転中、『危ない!』と思っても咄嗟に体が動かず、適切な操作が出来なかったという経験は誰しもありますよね。そうしたヒヤリハットを事故につなげないために、普段からゲーム感覚で楽しめるトレーニングです。


矢印の向きや色を、声に出しながら腕を動かすトレーニング。
毎日やると脳が鍛えられそうです
正しいドライビングポジションがすべての基本
体幹トレーニングのあとは、専用コースに出てのレッスンです。ここでは急ブレーキを踏む練習やスラローム、駐車のトレーニングを行いますが、特に重要なのはドライビングポジションです。ドライビングポジションが乱れているとステアリングを素早く切ることも、急ブレーキを踏むことも難しくなり、さらにはペダルの踏み間違いも起こり得ます。参加者のみなさんはそれぞれ自分のクルマを運転し、同乗した新井選手や鎌田選手から直々のレクチャーを受けていました。


鎌田選手、新井選手がドライビングポジションを指導
アイサイトをうまく使って「脳の疲れ」を減らす
会場では、希望者を対象にアイサイトツーリングアシストのデモ走行も行われました。アイサイトのような運転支援技術は、高齢者にとって必須の技術と松田さんは語ります。
「運転のとき、ドライバーの脳は意識的、無意識的に数々の作業を行っています。言わば、いくつものソフトウェアが立ち上がっている状態です。コンピュータでもソフトウェアを立ち上げすぎると動きが遅くなったりフリーズしたりしますよね︖アイサイトのような技術がそれらの処理を少しでも補ってくれると、脳や体の疲労を減らすことができます」。ご本人もスキーなどに行く際は、行きは運転支援技術を使って高速道路を走り、帰りは一般道で風景を楽しみながら、と使い分けて旅を楽しむようにしているそうです。

構内のコースを使ってアイサイトツーリングアシストの同乗体験も行われました
クルマのある豊かな人生を、できるかぎり長く
高齢者による痛ましい事故がニュースになり、免許を返納する高齢者が急増している昨今。だからこそ、少しでも多くの高齢者が自分の身体の状態を知り、安全に運転するための能力を身に着けて欲しいと松田さんは願っています。「免許を返納した途端、世界が狭くなって一気に老け込んでしまう例をいっぱい見てきました。クルマで出かけることによる移動の自由は、健康的な生活を送る上でも効果があるはずです」。クルマのある豊かな人生を、できるかぎり長く楽しむために。車の運転にも「スローエイジング」という考え方が広まっていくことを期待しています。

ABSが作動する急ブレーキは、ほとんどの参加者が初めての体験

パイロンスラローム。速さよりも確実な操作ができるかが大切です


レッスンは午前の部・午後の部の2回実施されました。
多くのご家族にご参加いただき、安全運転に対する関心の高さを感じることができました。