新型コロナウイルス(COVID-19)の感染が広がる中で、通勤に自転車を使用するようになった方もいらっしゃると思います。今回は通勤用としても使用されている方が多いクロスバイクで50㎞走るテクニックを元オリンピック選手、田代恭崇(やすたか)さんに教えていただきました。準備するもの、走り出してからの水分やエネルギー補給など、初心者にとっては"長距離"といえる50㎞を安全に愉しく走る方法を紹介します(第1回/全2回)。
通勤用クロスバイクで50㎞走るテクニックをオリンピアンに学ぶ 前編
通勤自転車を入り口に自転車の愉しさを知ってほしい
「せっかくの自転車を通勤だけに使うのはもったいない」と語るのは、自転車ロードレースのアテネオリンピック代表の田代恭崇さん。
田代さん(以下田代):自転車通勤を入り口として、休日にもサイクリングを楽しめるようになれば、自転車がさらに愉しめるようになります。そのひとつのハードルになるのが50㎞という距離です。個人差はあると思いますが、自転車通勤は大体5㎞以内、時間にして約30分ほど、毎日行っても続けることが負担にならない距離です。しかし50㎞という距離はいつもの通勤の10倍近く。数字を見てしまうと大変な距離ですが、知識やコツをつかめば、それほど難しい距離ではありません。
クロスバイクは軽量のフレームにやや細めのタイヤをセットした、いわゆるママチャリよりも軽い走りを実現するスポーツバイクです。「フラットバー」という、まっすぐなハンドルが装着されているのでスポーツバイク初心者でも乗りやすく通勤自転車として人気の車種です。
田代さん:ママチャリは身体を起こした姿勢で乗るため空気抵抗が大きく、あまりスピードの乗りが良くありません。反対にクロスバイクは空気抵抗が少ない前傾姿勢のまま走る必要がありますが、ロードバイクよりも前傾が深くないため、前方が見やすく腰などにも負担が少ないのが特長です。ママチャリの速度が時速15㎞くらいだとすれば、クロスバイクは楽に時速20㎞を超える速度を出すことができます。ルート次第ではありますが、初心者でも休憩を含めて4時間半あれば50㎞の距離を走ることも難しくありません。
50㎞といえば、東京駅から茅ヶ崎まで、大阪でいえば梅田駅から明石市までという地図上でみるとかなりの距離。それを人力で走ることができるのです。冒険みたいでワクワクしませんか? 多くの自転車乗りは、まず50㎞をクリアし、次は100㎞・・・と徐々に距離を伸ばして、自転車に魅せられてきたのです。皆さんにもぜひそれを体験してもらいたいと思っています。
走り始める前に準備しておくこと
さて、そんなクロスバイクに乗って50㎞を走り切るポイントとして田代さんが挙げたのは・・・
①クロスバイクのセッティング
②持ち物、ウエアの準備
③コース設定
④水分、エネルギー補給
⑤ストレッチ
以上の5つです。すぐに走り始めたい!という気持ちも分かりますが、まずは事前の準備を整えておきましょう。
田代さん:「①クロスバイクのセッティング」について説明します。大前提としてクロスバイクにはサイズがあり、きちんと自分の身体に合った自転車を準備することが何よりも大切です。さらにそれを自分の身体に合わせて、調整することが必要になります。主に調整するのはサドルの高さですが、高すぎず低すぎず、サドルに座った状態で両足のつま先が地面に着くくらいに合わせます。
田代さん:次に必要なのが「②持ち物、ウエアの準備」です。基本的に必要なのが「A」パンク修理キット、「B」ヘルメット、「C」グローブです。これらのものは通勤で使う場合でも必須のものなので、ぜひ揃えておきましょう。
※準備するギアについては過去の記事も参考にしましょう。
田代さん:長い距離を乗る時に履いておくと快適なのがサイクルパンツです。お尻の部分にクッションになる「パッド」が入っているので、長時間サドルに座っても痛みが出にくいアイテムです。さらに縫い目を極力減らしているので、ペダリングで脚を動かしても擦れにくくなっています。ウエアとの擦れは普段はまったく気にしないと思いますが、2時間を超えて自転車に乗ると、思いもよらないところが擦れて痛くなることがあります。特に下半身はサイクルパンツのような専用のものがあるといいでしょう。上半身は吸汗速乾素材のスポーツ用のTシャツがあればOKです。もちろん自転車用のウエアがあれば、さらに快適になります。
田代さん:サイクルパンツと一緒にクッション性の高いサドルに変更しても痛みを軽減できます。画像のように中央に穴があいた構造のサドルもあります。もし普段の自転車通勤で違和感がある場合は変えてみてもいいでしょう。
田代さん:水分補給のためのペットボトルは必ず持ちましょう。特に夏場の場合はこまめな水分補給が長距離の走行には欠かせません。運動中は塩分やミネラルが多く失われます。水よりは画像のようなスポーツドリンクや経口補水液を準備しておくと、脱水症状対策として効果的です。走行中の水分補給も大切ですが、走行前に十分に水分を摂ることも同じくらい重要です。目安としては500mlのスポーツドリンクを走行前に30分位かけて少しずつ飲んでおくと、脱水症対策になります。
田代さん:ドリンクボトルを自転車に保持できるボトルケージがあると、走行途中でもスムーズに水分補給ができます。画像のボトルケージはサイズが調整可能で、ペットボトル、自転車用のボトルの両方がセットできます。
今回は50㎞のサイクリングを愉しむための準備を中心に紹介しました。次回はコース設定や走り方について紹介します。お愉しみに!
今回の取材は日本サイクルスポーツ振興会、日本サイクリングガイド協会の基準をもとにソーシャルディスタンスに留意し実施しております。
- 指導/田代 恭崇(やすたか)さん
リンケージサイクリング株式会社(神奈川県藤沢市)を営み、湘南江の島を中心にサイクリングツアーで年間1,000人を超えるお客様をガイドする。また、サイクリングガイドの養成、自転車交通安全教育、サイクリングコース制作、サイクルツーリズム事業の監修、大規模サイクリングイベントアドバイザー安全管理を務めるなど、全国で様々なサイクリング事業を手掛ける。 - 取材協力/リンケージサイクリング