まだまだ早朝は霜が降り、外へ走り出すには気持ちが乗らないサイクリストの皆さんも多いのではないでしょうか。本来モチベーションになるはずのサイクリングイベントも中止が続いたりと、気づけば例年よりもお腹まわりに贅肉が付いてしまっていませんか!?
過去2回、ステイホーム企画として紹介した「Vol.1 効率的なダイエット」「Vol.2 筋膜リリースで身体をほぐす」に続いて、今回は「バイクに活きる筋トレ5選」を引き続きパーソナルトレーナーの伊藤透さんにアドバイスしてもらいます。筋トレで弛んだ身体を引き締めましょう!
プロコーチが教えるステイホーム中の自転車スキルアップ講座 Vol.3 自宅にいながら理想のサイクリスト体型を手に入れる!
バイクに活かす筋トレ5選


取材は東京と名古屋のスタジオを繋いでリモート形式で実施しました
自転車ジャーナリストのハシケンです。まず、筋トレと聞いて、みなさんが持たれるイメージはどのようなものでしょうか。ダンベルなど器具を使って負荷をかけることで、筋肉量を増やしペダルを踏み込むパワーを高めるためのものと考えていませんでしょうか。確かに、筋力アップは効果のひとつですが、ここで紹介する筋トレで得られる効果はそれだけではないようです。
ここでは、Q&A方式で伊藤コーチに質問をする形で、サイクリストにとっての筋トレについてわかりやすく紹介していきます。
Q.筋トレに取り組む上で知っておくべきことは何でしょうか。
A.伊藤コーチ まず、筋トレの目的は、ストレングスと呼ばれる筋力向上の面と、コンディショニングと呼ばれる筋の柔軟性向上および関節の可動域向上の両面があります。バイクの上で効率的なペダリングを目指すためにも、自在にフォームを変えるためにも柔軟性は欠かせません。

Q.筋トレには、筋力アップ以外にどのような効果がありますか。
A.伊藤コーチ サイクリストが取り組むべき筋トレは、基本的に自体重を負荷とした自重筋トレです。その効果は筋力向上だけでなく、膝関節の痛みの予防にも効果があります。また、すでに持っている筋肉をペダリングで使えるようにし、潜在的な筋肉を呼び覚ますこともできます。結果的にうまく動員できる筋肉が増えることで、持続的に高い出力を発揮しやすくなります。つまりスタミナが向上します。さらに、正しく筋や関節を動かすことを意識することで、バイクの上ではなかなか意識しづらい正しい身体の動きを身につけることにもつながります。

Q.筋トレを行う時に心がけたいことは何でしょうか。
A.動きの一つひとつを意識しながら、1回1回を正しい動きで行うことです。がむしゃらに負荷を上げて回数を増やせばよいというものではありません。また、サドルの上では意識しづらいペダリングで使用されるべき筋肉を、筋トレで刺激したうえで乗ることで、どのように使われるかを確認することも大切です。

Q.どれくらいの頻度で行えば良いのでしょうか。
A.伊藤コーチ 自重式なので負荷自体はさほど高くありませんが、それでも筋収縮の仕方や負荷のかかり方がバイクの動きとは異なるため、慣れるまで筋トレは疲労がたまりやすいです。無理のない頻度は、週1〜2回で十分です。そして、自転車に乗った日には行わず、自転車をお休みした日に、今回紹介する5つの筋トレに取り組むようにしましょう。

<伊藤コーチ厳選のバイクに活きる筋トレ5選>
Q.サイクリストに必要な筋トレのドリルを教えてください。
A.伊藤コーチ 今回は、はじめて筋トレに取り組む人に向けて、効果的な5つドリルを紹介します。自宅にいながら、しっかり効果を得られる自重式の筋トレです。
Drill.1 プランク

効果:骨盤から腰椎にかけての安定性を高めることができます。これにより、ペダルを踏み込んだとき、サドルの上で骨盤が暴れることなくペダリングパワーがしっかりと伝わるようになります。
やり方:ヒジは胸の前で肩幅ほどに開き、足は腰幅ほどに開いてポジションを作ります。その状態から身体を浮かせます。この時、頭からカカトまで一直線になるようにすることがポイントです。この状態を30秒キープ。背中が一直線にならずに、反り返ると腰にストレスがかかり、お尻が上がってしまうと胴回りに力が入らず効果が低くなります。
POINT
ヒジで地面を押すようなイメージをもつこと。
太腿の前側とお尻にしっかり力を入れること。


初心者向き!
簡易プランクなら取り組みやすい
標準的なプランク姿勢を作ることが難しければ、ヒザを付けて、ヒジで地面をクッと押してあげます。負荷を減らしたビギナー向けの体幹強化ドリルです。

Drill.2 プッシュアップ


POINT
正面から見たとき、地面に対して前ヒジが垂直になるくらいの幅
効果:シッティングで走っている時、腕で上半身を支えるのではなく、胸郭周りの筋肉で支えることが大事です。中でも大きな役割を果たす大胸筋を、プッシュアップで鍛えることにより、乗車時の肩こりや腕の疲労感を解消できます。また、踏み込み時のパワーロスを防ぎ、ダンシング時には下肢との連動を高めることができます。
やり方:プランクの基本姿勢からヒザをついたら、ヒジを曲げて腕立て伏せを行います。お尻を突き出さずに、おへそを前に出す意識で、頭からお尻が一直線になるようにします。一直線にならないと腕の筋力強化になってしまう。

初心者向き!
ヒザ付きで負荷を軽くできる
これでも難しい場合は、頭からお尻までは一直線にしつつ、下肢を「くの字」に曲げて行うことで負荷を下げることができます。

Drill.3 ヒップヒンジ

効果:太ももの裏側のハムストリングの筋力向上および柔軟性を高める効果があります。ハムストリングの筋力と柔軟性を高めることで、腰痛への不安を解消できるだけでなく、ペダリングで太ももの前側だけ頼る筋トレを防ぎ、結果として膝の痛みの予防をすることができます。
やり方:足幅は、間にこぶしが一つ入る程度に広げます。骨盤の出っ張っている箇所の下あたりに、人差し指と中指が当たるくらいで腰に手を当てます。その状態から、ヒジを後ろに引き寄せる意識で胸を張りながら、お尻を後ろへ突き出す意識を持ちましょう。ヒザを軽く曲げてしゃがみ込むと、ハムストリングスの伸びを感じます。この時、伸ばせる範囲で一瞬だけ伸ばして元に戻ることが大切です。伸びるポイントは自身の現在の柔軟性のレベルよるため、現状で最大限伸ばせるポイントの最大可動範囲で行うことが大事です。


POINT
人差し指と中指が当たるくらいで腰に手を当て、足幅はこぶし一個分のスペースを作る
Drill.4 リバースランジ

効果:お尻(臀筋)をメインで鍛えることができ、ペダリングの0〜3時の位置で早めにしっかり踏み込むことができ、逆に下死点まで踏み切ってペダリング効率が下がることを防ぐことができます。無駄なパワーを使わずに漕げ、腰痛の予防にも効果的です。
やり方:足幅はヒップヒンジと同じく、こぶしが一つ入る程度に広げます。また、両腕はまっすぐに前方へ出してバランスをとります。その状態から、足を前後に入れ替えながら、真上へ上がるイメージで上半身を上下させます。後ろの足の膝が床にタップしたら立ち上がるようにします。前後の足の距離感に気をつけましょう。前過ぎても後ろすぎても、臀筋への刺激は低くなります。



POINT
前側の足のスネが地面に対して垂直であること。前すぎても後ろすぎても本来の目的からはズレる

POINT
足先で立ち上がろうとするのではなく、股関節を中心に動き出す。後ろ足の床をタップする膝が、肩の真下にあるように注意
Drill.5 スクワット

効果:臀筋(お尻)や太ももなどの筋力向上と足の各関節の柔軟性向上が期待できます。下肢を総合的に鍛えることができ、ペダリング効率を高めつつ出力アップを実現します。
やり方:肩幅の真下にカカトがくるほどに足を開き、両腕はまっすぐに伸ばしてバランスを取ります。そこから、お尻をやや後方へ突き出すようにしながら、しゃがんでいきます。太腿の骨が地面と水平になるまで沈み込むことが理想です。ただし、無理に行って背中が丸まったり、ヒザが前後するようなら、現状でできる範囲の可動域内で取り組みましょう。



POINT
お尻の股関節から動かすイメージを持ち、お尻(臀筋)主導で行う。沈み込んだ時にヒザがカカトより前に出ないように注意
以上、伊藤コーチが厳選するサイクリストが取り組むべき5つの筋トレを紹介しました。あと1ヶ月もすると春らしくなり、外へ走りにいきたくなる季節になるでしょう。その時に向けて、筋トレによってシュッと引き締まった身体づくりを目指していきましょう。いよいよ、次回は家から飛び出して春のロングライドへ出かけます。ライド時の注意点を伊藤透コーチにアドバイスしてもらいます。
●取材協力:伊藤 透さん(Personal & Cycle Studio i 代表)
サイクリストやトライアスリートを対象にトレーニング指導を行うトレーナー。自身も海外でのロードレース活動の経験を持つ。現在、名古屋市内でトレーニングジム「パーソナル&サイクルスタジオアイ」を運営する傍ら、実業団ロードレースチームの代表も務める。
ホームページ https://cyclestudioi.com